2月14日。
夕方頃、家に現れた瑰里の鞄には、可愛い包装を施された箱がいくつも入っていた。
「おい厘、何勝手に見てるんだ」
本を手にした瑰里が慌てて戻ってきて、アタシの手から鞄を取り上げる。
む、いーじゃない、ちょっと見るくらい。
「玄関に置きっぱなしにする方が悪いのよ。だって瑰里の鞄なのに、可愛い柄のモノがはみ出してたんだもん、気になるわよ」
「だからって漁るか。今日は本借りに来ただけですぐ帰るから、一時的に置くくらいいいだろ」
瑰里は呆れ混じりの溜息を吐いた。
その態度が面白くなくて、どうしてかムカムカして、落ち着かないわ。
そんなに見られたくないモノ?
「それってチョコでしょ?」
「…まぁ」
「へー、瑰里モッテモテなのねー、凄いじゃないの!そんなにあったら、別にアタシからなんて要らないわねっ」
我ながら嫌味ったらしい言い方だと思うけど、怒りにまかせて吐き捨てて、さっさと自分の部屋に引っ込もうと、踵を返す。
どうせアタシがあげたって、その中に埋もれちゃうんでしょ。
だったらいいわよ、あげなくたっていいでしょ?
「厘!?…待て!」
ところが、すぐさま強い力で左腕を掴まれる。
「痛ッ」
「っ、悪い!」
慌てて瑰里は手を離した。
あー、吃驚したぁ。
そんなに強く引き止めるなんて、何なのよ?
「人の話を最後まで聞けっての。…あのな」
睨みつけると、瑰里はバツの悪そうな顔で、鞄からチョコを全部取り出して、アタシに差し出してきた。
「これ全部食ってくれないか?」
「…ええ?」
つい顔をしかめちゃう。
「解るだろ!チョコ嫌いなんだよ!」
どうにも瑰里は本気っぽい。
うん、それは知ってるけど…
「でも、折角貰ったのに」
「いいんだよ、全部付き合いでの義理なんだから」
「…そうなの?」
「目上の人からじゃ断れないだろ」
瑰里は本当に困った様子で溜息を吐いた。
…あぁ、バイトとか、道場とかの付き合いからかしら。
そっか。…なーんだ。
「本当に貰っていいの?」
「頼む」
嬉しくなって、いつの間にか笑っていた。
瑰里の手からチョコを受け取る。
「しょーがないわねっ、そこまで言うなら食べてあげる」
チョコを貰えたのも嬉しいけど、瑰里が惜しみなくくれたって事がもっと嬉しい。どうしてかしら?まぁ、いっかー♪
瑰里は苦笑する。
「現金な奴」
「なーによぅ。…でもさ、どうせくれるなら、鞄見られたって良かったんじゃないの?」
やっぱりちょっと引っ掛かって瑰里を窺うと、瑰里は眉をしかめた。
「それとは別に、仕事の覚書とかも入ってるんだぞ。失くされたら困る」
「人聞き悪いわね、失くしたりしないわよ」
「失くそうと思わなくても、失くす事だってあるだろ。特に厘は粗忽だし考えなしだから」
「何よそれ―――っ!失礼しちゃうわっ」
確かによく物失くしたりするけど、図星指されるとムッとしちゃう。
貰ったチョコを抱えて、居間に行こうとしたら、瑰里に引き止められた。
「厘」
「何よ」
「…えーと、厘からはないのか?」
え。
あわわ、忘れてた!って言うか、まさか催促されると思ってなかったから、吃驚したじゃないっ。
何だか急に恥ずかしくなってきて、顔が火照ってくる。
「…欲しいの?」
精一杯意地悪く訊いてやると、瑰里も負けじと口の端を上げる。
「どんな奇抜な物用意してるか、恐いもの見たさ、ってやつだ」
酷い言い様じゃないの…でも、あげる切っ掛けが出来たから、今回は目を瞑ってあげるわ。
「言ってくれるわね。そういう事なら、ちょっと待ってて。結局チョコゼロの可哀相な瑰里に持ってきてあげるわよ」
自分の部屋に行って、用意しておいた包みを持ってきて瑰里に差し出した。
「はい、ありがたく受け取りなさい」
「偉そうだなー。はいはい、ありがたいありがたい」
呆れ笑いを浮かべながらも、瑰里は受け取ってくれた。
よかった、受け取ってもらえたのが嬉しくて、ホッとしちゃった。
「感謝が足りないっ!ねー、開けてみてよ」
アタシの言うままに、瑰里は包みを開けて中身を取り出した。
「マフラー…?」
「うん。手編みじゃないけどね」
「見りゃ解る」
チョコレート色の、柔らかくて手触り抜群の厚手のマフラーよ。
店で見かけてすぐ、瑰里に似合いそうだと思って買っちゃったんだから。
だから今すぐつけてみて欲しくて、瑰里の手からマフラーを取って、そのまま瑰里の首にかけようと、腕を伸ばす。
けど。
…届かない。
精一杯爪先立ちするけど、瑰里が避けるっ。
「ちょっと、避けないでよ!」
「いや、つい」
瑰里は意地悪く笑って、マフラーから逃げる。
むーかつーく!
ちょっと背が高いと思って意地悪して!
「ってかしゃがんでよ!」
「やだよ」
完全にからかわれてるっ。
悔しくて恥ずかしくてムカついて、顔が熱くなる。
…もー、こうなったらっ。
「瑰里のバカぁっ!」
思いっきり、瑰里の膝裏を蹴ってやった。
無防備だった瑰里はバランスを崩して、床に尻餅をついた。
やった、勝った。
「…蹴るなよ…」
苦笑する瑰里の首に、ここぞとばかりにマフラーを巻く。
思ったとおりよく似合ってたから、満足感いっぱいで微笑んだ。
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